
このレポートは2021/9/28開催『インパクト投資フォーラム2021』
インパクト企業が上場企業になること〜事例から見えて来る挑戦 の記録です。
インパクト企業の定義と海外事例
定義
インパクト企業とは、事業活動を通じて社会的・環境的課題を解決しており、それが企業価値の源泉となっている企業。
- 社会的・環境的課題の意図があること
- インパクト測定・マネジメントに継続的に取り組んでいること
- ステークホルダーと対話していること
上場インパクト企業例
・VitalFarms(米)
インパクトを追求するコミュニケーションを徹底。
・Amalgamated Bank(米)
個人・法人とも融資をインパクトに集中。
・Coursera(米)
雇用機械の拡大に付与、登録ユーザーのスキルレポートも発行。
事例企業の特徴
- インパクトがビジネスの根幹にある。商品やサービスが売れれば売れるほどインパクトが拡大していく。
- 上場した後もインパクトマネジメント、情報開示をシームレスに行っている。ただし情報開示を事業会社単体でやっていくのは難しいので投資家のバックアップが必要。
パネルディスカッション
(株)カチタス 新井社長、(株)坂ノ途中 小野社長、(財)社会変革推進財団リサーチフェロー 須藤奈応氏
– インパクトを追求しながら事業の拡大をするのはトレードオフだと思うか?
-(新井社長)当社にとってトレードオフは2つある。
一つは仕入れで、売主は高く売りたいが我々はコストを抑えたい。我々しか買い取れないというスキル・強みを活かすこと解決している。築30年越えの建物は調査力・リフォーム施工スキルがないと買取は難しい。我々だからこそ買い取れるというターゲットをセグメントしている。
二つ目は我々は売価を上げたいが買主はそうではないということ。ターゲットとする低所得者の方々が手の届く価格(家賃相当)に設定したいので初期費用は安くしているが、少し余裕のあるお客様からオプションで追加のリフォームを受注することで解決している。
– 強みを積み重ねるまでは、トレードオフの問題は難しかったか?
-(新井社長)当社は、昔は競売で落札して家を販売する会社だった。原価はどんどん上がるのにもかかわらず売価は上げられないため、事業として成り立たなくなりつつあった。
当社自身がリフォームの力や調査力の強みに気づいて、それを生かす新しい仕入れのリソースを探したところ空き家が見つかった。数年間苦労しながらターゲットを移行していった。
-(小野社長)当社も新井社長の話に似た工夫を積み重ねてきた。事業成長と社会課題解決は相互にドライバーになるのが望ましいのでそこを考えながら事業を作ってきた。
農産物生産は不安定なものだが、どうやったら安定するかではなく、野菜はもともと不安定なものなので、生き物としての揺れをお客様にも楽しんでもらうという方向できた。人参の味は季節によっていろいろで、前回との違いに興味を持ってもらいながら食べてもらう。
たとえばこの時期ちょうど夏野菜が終わっていく時期で、万願寺とうがらしには黒ずみが出てくる。
市場ではゴミになるが、『お日様ゆったり浴びた証拠だし、黒色のアントシアンはサプリで摂るくらいのものだから安心して食べてください』と話すと、お客様は面白がりながら食べてくれる。
生産者にとっては、この時期に夏野菜出荷できるのはダイレクトに売上拡大につながる。
今までは持ち出しの時期だった。当社は稼ぎやすい出荷の仕方ができるよう仕組みを整えているため、特に新規就農の方々に喜んでもらえて定着してもらっている。
-ステークホルダーにインパクト追求を理解してもらうためにどのような取り組みをしているか?
-(新井社長)我々が売主に対してパンフレットで何を伝えるかというと「我々が何を実現しようとしているか」ということ。普通だったら壊された家を住みつなぐということ。そこに共感してくださる方に売ってほしいと考えている。
買主の方にも、日本は新築志向の社会だが、家というよりは済みつながれた暮らしを買ってほしい、費用を抑えてその分より良い暮らしをするために使ってほしい、ということを伝える。
これらを従業員の誰もが話せるようにすること。そしてお客様の声を全社にフィードバックすることが大切。
-上場後の方が株価に対する意識をステークホルダーに厳しく見られるのではないか?
-(新井社長)上場すると確かに株主からのプレッシャーはかかるが、上場によって従業員の採用やお客様の信頼は上がるのでプラスになっている。どういう方に株主になっていただきたいかが重要。上場後も2−3割、長期的目線で見てもらえる安定株主をファンドとも相談して徹底的にリサーチして探した。
-(小野社長)どんな人に株主になってほしいかは私がこれから追求していきたいテーマである。現在はステークホルダーの誰かを神聖視しないことを大切にしている。生産者と過ごしている時間が少ない方は生産者をすごくあがめるorすごく見下すのどちらかになりがちである。私たちは農家さんと過ごす時間が長いのでいろいろな話をする。個として接している。
また、お客様も神聖視しない。お客様が商品を選んでしまうとイマイチなもの選んでしまう可能性もあるので、おまかせにして自分たちが選ぶ手伝いをしている。自分たちは編集することが仕事。実際に編集の仕事をしていた社員もいる。
-株主との関係で工夫している点は?印象に残っていることは?
-(新井社長)成長期待をどうコントロールするかを工夫している。我々が目指す世界を実現しようとすると急激な成長がベストではないほうがいい場合がある。「何がリスクか?何が課題か?」と聞かれる時は急激な成長と答えている。空き家はマーケットが大きいからガンガン成長していこうという方向性になりがちなので、そこを説明して理解してもらっている。
また、近年、ESG・インパクトの観点を捉えて応援して一緒に考えてくださる株主様が増えていると感じる。
-(小野社長)当社は上場準備中でシリーズCまで資金調達を行った。株主様とは、「とりあえず(経営陣に)任せておこう」という関係性を大事にしている。そのために月次情報をしっかり出して透明性を大事にしている。現在黒字化しているコーヒー事業も、複数の株主から「当初は黒字化すると思ってなかった」と言われた。何をやるかは任せておこうと言ってもらえる関係性を作り続けたい。
-参加者の皆様にメッセージをお願いします。
-(新井社長)(起業家の皆様に)自分たちの強みは何で、どういう課題を解決しようとしているかを突き詰めてほしい。強みをとことん極めて、必ず起きるトレードオフを解決していってほしい。
(金融機関に)当社の株を持つということは一緒に空き家の課題を解決している気持ちになってほしいと個人投資家さんには言っている。金融機関さんにもそのように思ってほしい。
-(小野社長)エクイティファイナンスとソーシャルベンチャーの距離はかつてなく近づいている。しかしソーシャルセクターもファイナンスの理解が足りないし、投資する側もソーシャルセクターへの理解が追いついていない。トレードオフだとか、社会課題解決として難易度の高いことを事業にしていることを、上手くいってないことの隠れ蓑にしてはいけない。
また、起業家には、企業の方向性がどこに向かうか決まる前のエクイティファイナンスに慎重になったほうがいいと伝えたい。投資する側に伝えたいことは、社会課題の時間軸の長さである。足の長いお金に対するニーズはとてもあるので、ぜひ理解してほしい。
以上