
NPO法人を設立して10年以上。
設立当時のコアメンバーはがむしゃらに走り続けた。
時代の後押しもあってか,受託事業も自主事業もどんどん広がっていき,地域では誰もが一目置くNPO法人となった。
そして現在。
似たような事業内容の後発NPO法人がどんどん出てきて,地域に求められることも変わってきており,自分たちも何か変えていかなければいかないのは分かっている。
が,長年やってきた毎年のルーティンや事業はなかなか変えることが難しく,新しいことに挑戦しようとする動きが出てきても,理事会で抵抗の声が上がる
今のままでいいじゃないか,どうにか現状回っているんだから。
設立当時のメンバーたちも,それぞれ独自の活動を持ったり,そもそも年齢も上がっているので,新しいことをやる元気は今更もうない。
そんな時,ひとりの有望な新人スタッフを雇用することになった。

その男性は長年会社員だったが,
地域貢献や市民活動に興味を持って大学の社会人講座を修め,満を持してソーシャル業界で働こうと会社を辞めたところだった。
そして,男性が面接に訪れたのが,そのNPO法人であった。
NPO法人のコアメンバーたちはその男性を歓迎し,事務局スタッフとして雇用した。
コアメンバーたちは,一安心だったはずだ。
このNPO法人の将来を背負って立つスタッフになると感じ,事業の全てを託した。
男性もやる気にあふれていたので,事務局として常駐し,手探りながらもこれまで通りの事業を仕切り,それに加えて新しい事業の企画もどんどん出していった。
しかし,充分な引き継ぎはされなかった。
特に,協働相手や取引先など,人に対しての引き継ぎがなかったことが男性にとっては負担が大きく,
一人で手探りで信頼関係を作っていかなければならず
これまでは「いつも通り」で済んでいたことがそれでは済まなくなり,相手にも負担をかけた。
また,こちらと相手のこれまでの距離感,阿吽の呼吸なども全くわからず,だんだん男性は疲弊していった。

そんな中,来年度の事業計画と予算書を作る段になったが,
くわしい作り方を聞こうとしても事務局長や理事は充分なフォローをしてくれなかった。
大丈夫大丈夫,去年のものをベースにやればいいから。
仕事についてフォローがほしいので,外部の専門家に仕事を頼みたいと掛け合っても,そんなお金がどこから出てくるの,と相手にもされない。
男性の中での,このNPO法人をこうしていきたい,こんなことをやりたいという気持ちはだんだん萎んでいった。孤独を感じるようになった。
そしてある日唐突に,その男性は辞意を伝えた。
実際の相談をベースに,一部脚色してあります。
このストーリーの中には,NPO法人の世代交代,マネジメントについて学ぶべきところがたくさんある・・
と思い,共有しました。

山崎梨紗
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