今更きけないNPOの基礎

NPO法人の解散手続きマニュアル

NPO法人の解散手続きは、一見複雑です。

所轄庁から丁寧なマニュアルが出ていることも多いのですが、それとは別に登記用のマニュアルが法務局HPに上がっていることが混乱の一因のような気がしています。

解散を決議する議事録の雛形ひとつとっても所轄庁と法務局で違うので、どちらを使っていいのか迷ってしまいますよね。

また、解散手続きに関する書類の提出先が

  • 所轄庁
  • 法務局
  • 税務署

と3つに分かれているのも複雑です。

このページでは、司法書士の立場からできるだけわかりやすい説明を試みてみようと思います。

手続き全体の流れ

行政のマニュアル

こちらは静岡県の『特定非営利活動法人(NPO法人) 事務の手引き』です。
https://www.npo-fujinokuni.jp/guidance/
※ほとんどの所轄庁にはこんなマニュアルがあります。

ほとんどの所轄庁は、こういったマニュアルを用意しているのですが、やはりこれだけだと何が何だかちょっとわからなくても当然だと思います。

次から、実際の例に当てはめて解説してみます。

ケーススタディ

ここではケーススタディとして、
とある静岡県内のNPO法人が(3月決算)、定時総会(毎年恒例の総会)で年間事業報告と共に解散決議をしようとする事例で説明したいと思います。

実際の手続きの流れ

今現在が3月で、次の5月の定時総会で解散決議を行おうとしています。

①年度末いつものように3月末日に会計締め、申告→税務署

②5月に定時総会
(この場で解散決議 ※総社員の4分の3以上の議決が必要)
(残余財産分配先を決めてない場合は、その選定)

解散と清算人就任の登記→法務局

④解散届出と登記事項証明書提出→静岡県(所轄庁)

⑤解散の異動届提出、申告→税務署

⑥官報広告掲載申請

⑦官報広告掲載から2ヶ月後、残余財産の確定と分配、財産目録作成

⑧清算結了の登記→法務局

⑨清算結了届出と登記事項証明書提出→静岡県(所轄庁)

⑩清算結了の異動届出提出、申告→税務署

ここから1項目ずつ、よく出てくる悩みを中心にポイント解説していきますね。

総会の解散決議と解散理由についてのポイント

まず、NPO法人の解散理由は、以下のどれかです。

①社員総会の決議(法第31条第1項第1号、第31条の2)
②定款で定めた解散事由の発生(法第31条第1項第2号)
③目的とする特定非営利活動に係る事業の成功の不能(法第31条第1項第3号、同第3項)
④社員の欠亡(法第31条第1項第4号)
⑤合併(法第31条第1項第5号)
⑥破産手続開始の決定(法第31条第1項第6号、第31条の3)
⑦所轄庁による設立の認証の取消し(法第31条第1項第7号)

大抵は、①社員総会の決議が解散理由になります。

よく相談されるのは、自分たちは③にあたるんじゃないか?ということです。

でも③の成功の不能を証明ですることって大変ですよね。

実際にも③を理由にして解散をする場合には、「これこれこうなので解散します」っていう書類を作成し、その「不能」を所轄庁に認定してもらうプロセスが必要になります。

余計な手間をあえて増やすこともないと思いますので、ここは素直に社員総会の決議をしましょう。決議が成立すれば、その事情や理由は問われません。

決議には総社員の4分の3以上の賛成が必要になりますので、総会前に社員のみなさまに解散に至った背景や理由などを丁寧に説明して、当日の決議がスムーズにいくように根回しをしっかりしておいてくださいね。

※なんらかの理由で総会が開催できない、総会で決議ができそうにない場合は専門家にご相談ください。

また、後ほど説明しますが、残余財産の帰属先を定款で明確に定めていない場合は、それについても決議をしてくださいね。

解散と清算人就任の登記のポイント

社員総会で解散決議を行ったら2週間以内に、法務局に対して解散と清算人就任の登記を行います。

登記と一緒に、法人印届出(今までと同じ印鑑でOK)も行いますので、お忘れなきようお願いします。

代表者は変わらなくても、これまでは理事として法人印届出をしていたので、改めて清算人として法人印届出をし直す、という意味の手続きです。

さて、ここで詰まるポイントは、清算人の就任登記です。

まずは定款で「誰が清算人になるのか」の規定を確認してください。

大抵、「理事が清算人になる」となっていると思いますので、理事について清算人就任の登記を行います。

(理事から清算人へと役職が変わるので、就任登記をします。)

ここで問題になるのが、理事長など特定の理事のみが代表権を持っている場合です。(大抵そうなんですが)

現在の登記事項証明書には、その代表権を持った理事長しか登記されていないはずです。

なので、その理事長についてはそのまま清算人就任登記をすればいいのですが、

定款の定めが「理事が清算人になる」となっている場合、理事長以外の理事(つまり平理事)も清算人になるので、平理事についても清算人就任登記をしなければいけないんです。

そうすると登記申請書を見た法務局側としては、

いきなり清算人として登場してきた平理事たちを見て、

「えっ、この人たちって本当に最初から理事だったの?」となるんですね。(初めて見る名前ですからね)

というわけで、結論としては

代表権を持つ理事以外の平理事を清算人として就任登記するために、その平理事たち一人一人について、選任された当時の社員総会議事録と当時の就任承諾書が必要書類になります。

当時の議事録と就任承諾書が見つからない場合は、作り直しが必要です。

無事に登記が終わったら、法務局で登記事項証明書を取得して、解散届出と一緒に所轄庁に提出してくださいね。

その後、税務署に対して解散の異動届出と申告を行います。

(法務局→所轄庁→税務署というのが基本の流れです)

清算事務と官報広告について

さて、解散と清算人の登記が完了すると、そのNPO法人は「清算法人」になります。

もう営業活動は一切行わず、清算の事務を行うために存在する法人という意味です。

もちろん清算事務に必要な費用を支出することはできますので、ご安心くださいね。(事務局スタッフへのお給料や専門家報酬など)

そして、清算事務としてまず初めに何を行うべきかと言いますと、財産目録の作成と官報公告の掲載です。

財産目録作成はいいとして、官報公告を早めに掲載手配することが重要です。

掲載日から2週間経過しないと、清算結了登記はできませんので、できるだけはやく掲載したいところです。

官報公告の掲載方法

なぜ兵庫・・?と思われるかもしれませんが、ネットで申し込みができるため、専門家ご用達の便利サイトです。(なんの紹介料ももらってませんが笑)

こちらでNPO法人の解散というページを見て、手続きに従って注文すると誰にでも簡単に官報公告掲載を叶えることができます。

料金は大体5万円くらい見ておけば大丈夫だと思います。

(公告なので行数によって料金が増えるんですよね・・名称が長かったり住所が長かったりするとちょっと高くなります。ツライ。)

官報公告の意味

この2ヶ月間の官報掲載は、

「このたび解散したNPO法人に対する債権を持ってる人(お金を貸してる人)は出てきてね!」

というのを全国民に知らしめているという意味を持ちます。

もちろん他に、法人の方で把握している債権者がいれば、確実に弁済を行ってくださいね。

また逆に、法人が未回収の債権がありましたら、確実に回収を行ってください。

以上のように債権債務を確定させて弁済や回収を行ったり、各契約を解除したり、主だった財産を贈与したり売却したりすることが、清算事務の内容になります。

残余財産の確定と分配についてのポイント

さて、官報掲載から2ヶ月経っても債権者は現れなかった。

そして債権債務を確定し、債権の回収と債務の弁済も完了したら、残余財産が確定します。

ここで再び、財産目録を作成します。(純粋に法人に残っている財産として)

さて、NPO法人は、この残余財産を社員に分配することはできません。

まずは定款を見て、「残余財産はどうするか?」についての規定を確認してくださいね。(第51条あたりかな)

多くの場合、『NPO法第11条第3項に規定する法人の中から、総会で選定したものに帰属する』になっているのではないかなと思います。

この帰属先を選定するのは、解散を決議する総会のときでOKです。

NPO法第11条第3項に規定する法人とは下記の通り。

  • NPO法人
  • 国又は地方公共団体
  • 公益社団法人又は公益財団法人
  • 学校法人
  • 社会福祉法人
  • 更生保護法人

万が一定款になんの定めもない場合は、分配先について所轄庁の認証を得るというプロセスが一つ増えてしまいます。(詳しくは窓口に問い合わせてくださいね)

また、何も決めないと国庫に帰属させなければいけなくなりますので、自分たちの意志を示すためにも総会できちんと帰属先を決めるのがおすすめです。

清算結了の登記と清算の届出。

さて、官報公告掲載から2ヶ月経った。残余財産も分配した。

ここでやっと清算結了登記を法務局に申請できます。

清算結了登記については特に解説するべきポイントがない・・・と思っていたら1つ思い出しました。

登記の必要書類として清算事務報告書というものがあるんですが、そのことについての話です。

税理士さんに依頼するときに確認すること

記事が長くなってきたので、冒頭で説明したフローを再掲します。

青色の文字が申告のタイミングで、このケーススタディの場合だと申告は3回必要です。

毎年行っている確定申告の他に、解散時に1回、清算結了時に1回。

こちらは個人だと作成が難しいので、素直に税理士さんにお願いするのが得策だと思います。

そして、はじめに税理士さんに依頼する際、ぜひ言っておいてほしいのが、

「⑦清算結了登記(法務局)の必要書類を作成してね」ということです。

↓清算結了登記の際、下記のような清算事務報告書(財産目録と貸借対照表付き)が必要になります。

経験のある税理士さんなら何も言わなくてもこの書類を作ってくれるはずなのですが、経験がない税理士さんの場合、こちらから言わないと作ってくれないこともあります。

そういう場合、最終の確定申告書類だけポンと渡されて、

「ここから登記申請用の清算事務報告書の形に直すにはどうしたらいいんだ・・・」

と悩むことになりますので、念のために税理士さんには初めに伝えておいてくださいね。

清算結了登記が無事完了したら、また法務局で登記事項証明書を取得して、清算結了届出と一緒に所轄庁に提出します。

そして最後に、税務署に清算結了の異動届出と申告を行えば解散の手続きは終了です。

お疲れ様でした!(私も疲れた・・)

(おまけ)議事録など書類作成のときに知っておきたいこと

はじめにお伝えしましたが、法務局と所轄庁で提供している書類の雛形が異なるケースがよくあります。(たとえば総会議事録や、委任状など)

そしてこちらは行政の提供する議事録の雛形。
(栃木県HPより)

www.pref.tochigi.lg.jp
ご参考に
http://www.pref.tochigi.lg.jp/c01/life/npo/npo/documents/0406kakusyushinsei_k...
http://www.pref.tochigi.lg.jp/c01/life/npo/npo/documents/0406kakusyushinsei_kaisann_seisan.pdf

解散だけでなく法人設立の時も役員変更の時もそうです。

これはなぜかというと、法務局の方は『登記を通すのに必要最低限な項目が載っている雛形』を提供しているからです。つまりミニマムなんですね。

なので、じゃあ書類を作成する際にどうすればいいかというと、

法務局の雛形をベースにして、
そこに所轄庁の雛形に載っているような現実的な項目(事業報告など)を追加していくという方法がいいのではないかと思います。

最後に

というわけで、NPO法人の解散手続きのポイントについてはこんなところです。

ざっと読んでみて、できそうだと思えたら自分たちでやってもOK!

内容はわかったけど大変そうだから専門家に頼みたい、もOK!

その場合はぜひ当事務所までご依頼くださいね。

それでは最後までお読みいただきありがとうございました!

山崎 梨紗